時計の心臓部、「ムーブメント」のことどれくらい知っていますか?
みなさま、こんにちは!来年まであと少しですね。
年末年始の計画は立てられましたか?かく言う私は未だ年末年始の計画を立てられていません。
今ぼんやりと思い浮かんでいることは、数年塗装を乾燥させたままのジブリ映画「風の谷のナウシカ」で出てくる「メーヴェ」という飛行物体のプラモデルを完成させること。
台湾で購入したちょっと良い中国茶器が、持ち帰りの際にうっすらヒビがはいってしまったので(今もなお凹んでいます)金継ぎをやる、ということ。(申し訳ございません、こんな小さな目標を語ってしまいました。)
さて、今回は少し専門的な話をしようと思います。
時計のムーブメントとはどこで誰がどのように作っているのかご存じでしょうか?
今回は「どこで」にフォーカスしてみます。
目次
ムーブメントサプライヤーについて
時計のムーブメントサプライヤーの中でも、最も有名な2社について詳細に説明いたします。
1.ETA(エタ)
ETAは、スイスの時計ムーブメントメーカーとして世界最大手の企業です。
1793年に設立され、長い歴史を持つ老舗メーカーです。スウォッチグループの傘下にあり、主にスイス国内の高級時計ブランドに対してムーブメントを供給しています。
特徴:
– 最も信頼性の高いムーブメントを製造
– 年間数百万個のムーブメントを生産
– 自動巻き、手巻き、クォーツムーブメントまで幅広く製造
– スイス時計産業において中心的な役割を果たしている
ビジネスモデル:
高級時計ブランドへのムーブメント供給を主とし、自社ブランドの時計も少数生産しています。多くの高級時計メーカーがETAのムーブメントを使用しており、業界標準となっています。
2.セリタ(Sellita)
セリタは、比較的新しいムーブメントメーカーで、1950年に設立されました。ETAの代替品として知られ、多くの時計ブランドに採用されています。
特徴:
– ETAのムーブメントをリバースエンジニアリングし、類似のムーブメントを製造
– 比較的低価格で高品質なムーブメントを提供
– 中小規模の時計ブランドに人気
– ETA社の供給制限後に急成長したメーカー
ビジネスモデル:
ETAと同様のムーブメントを、より低価格で時計ブランドに供給することを戦略としています。
特に、高級時計ブランドが自社ムーブメントを開発できない、または高コストを避けたい場合に選ばれています。
両社の共通点:
– スイスの時計ムーブメント産業を代表する企業
– 高い精度と信頼性を持つムーブメントを製造
– 世界中の時計ブランドに供給
相違点:
– ETAは歴史が長く、スウォッチグループ傘下の大企業
– セリタは比較的新しく、ETAの代替品として成長した企業
これらの2社は、現代の時計産業において極めて重要な役割を果たしており、多くの時計ブランドの技術的基盤を支えています。
2大サプライヤーのムーブメントを使用しているメーカーとは?
時計のムーブメントサプライヤーであるETAとセリタを使用している、あるいは使用していたメーカーについて、過去と現在に分けて説明いたします。
ETAムーブメント(過去)
1.カルティエ
長年にわたりETAムーブメントを使用し、特に初期のパンテールモデルや多くのクラシックモデルでETAムーブメントを採用していました。
2. シャネル
J12シリーズの初期モデルでETAムーブメントを使用していました。高級セラミック時計において、ETAの信頼性の高いムーブメントを選択していました。
3. タグ・ホイヤー
カレラシリーズの多くのモデルで、ETAムーブメントを使用していました。
4. オメガ
スピードマスターシリーズの一部のモデルでETAムーブメントを採用していました。
5. IWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)
ポルトギーゼシリーズなど、多くのモデルでETAムーブメントを使用していました。
セリタムーブメント(現在)
1.チューダー(Tudor)
ブラックベイシリーズの多くのモデルで、セリタムーブメントを採用しています。オリジナルムーブメントの開発が難しい中小規模ブランドの代表的な例です。
2. オリス
多くの機械式時計モデルでセリタムーブメントを使用しています。独自のムーブメント開発が困難な際に、セリタを選択しています。
3. レイモンドウェイル
セミアマチュアブランドとして、セリタムーブメントを積極的に採用しています。
4. ユンハンス
ドイツの時計ブランドで、いくつかのモデルでセリタムーブメントを使用しています。
ETAムーブメント(現在)
1. パネライ
一部のモデルでETAムーブメントを継続的に使用しています。
2. ブライトリング
いくつかのクラシックモデルでETAムーブメントを採用しています。
3. ロンジン
ETA傘下のブランドとして、ETAムーブメントを多く使用しています。
重要な変化のポイント
– ETAは2000年代後半から、自社ムーブメントの供給を段階的に制限
– これにより、多くのブランドがセリタや自社開発のムーブメントに移行
– 高級ブランドは徐々に自社製ムーブメントの開発に注力するようになりました
現代の時計産業では、ブランドごとにムーブメント戦略が多様化しており、ETAやセリタへの依存度が変化してきています。独自のムーブメント開発が、ブランドの付加価値となっている現状があります。
2020年ETA問題とは?
2020年のETA問題は、スイス時計産業に大きな影響を与えた重要な出来事です。以下にその詳細を説明いたします。
背景
ETAは、長年にわたり多くの時計ブランドにムーブメントを供給してきた独占的なサプライヤーでした。スウォッチグループの傘下にあり、市場の約80%のムーブメントを供給していた企業です。
問題の本質
ETAは、自社のムーブメントの供給を段階的に制限すると発表しました。これは、主に以下の理由によるものでした。
1. 独占禁止法への対応
スウォッチグループは、欧州連合から独占的な地位を是正するよう求められていました。時計産業における過度な市場支配を解消する必要がありました。
2. ブランドの自立性促進
ETAは、他のブランドが自社のムーブメントを開発することを間接的に促進しようとしていました。
影響
この決定は、時計産業に劇的な変化をもたらしました。
1. ムーブメント開発の加速
多くのブランドが自社製ムーブメントの開発に本格的に取り組むようになりました。
例えば、
– タグ・ホイヤー
– ブライトリング
– オリス
– チューダー
2. 代替サプライヤーの台頭
セリタなどの代替ムーブメントメーカーが急成長しました。
3. 技術革新
各ブランドが独自のムーブメント開発に注力することで、技術革新が加速しました。
具体的な影響
– 中小規模のブランドは、代替ムーブメントの調達に苦心
– 高級ブランドは自社開発に投資
– ムーブメントの多様化と競争力強化
結果としての変革
2020年のETA問題は、結果的にスイス時計産業に以下のような変革をもたらしました。
– ブランドの技術的独立性の向上
– ムーブメント市場の多様化
– 技術革新の加速
– 各ブランドのユニーク性の強化
この出来事は、単なる供給制限ではなく、時計産業全体の構造的変革を促す転換点となりました。
各ブランドは、より独自性の高いムーブメント開発に注力するようになり、結果として時計産業の技術的進歩と多様性が促進されたのです。
自社ムーブメントを長年開発し続けているメーカー、いわゆる「独立起業」
時計産業における自社ムーブメント開発で成功した独立企業について、詳細に説明いたします。
1.ロレックス
歴史的背景:
1905年に創業し、スイスのジュネーブに本拠を置く世界的に有名な高級時計メーカーです。創業者のハンス・ウィルスドルフは、常に革新的な技術開発に注力してきました。
自社ムーブメントの特徴:
– 1931年に自動巻き機構「パーペチュアル」を開発
– 高精度と信頼性で知られる自社ムーブメント
– 毎年わずかな改良を重ね、精度を追求
– 代表的なムーブメント:3235型(デイトジャスト)、4130型(デイトナ)
– 年間生産数約100万個の自社ムーブメント
– COSC(スイス公認クロノメーター検定機関)の最高基準をクリア
2.オーデマピゲ
歴史的背景:
1875年にスイスのル・ブラッシュで創業。複雑な機械式時計で世界的に有名な老舗メーカーです。
自社ムーブメントの特徴:
– 1972年に革新的な「ロイヤルオーク」シリーズを発表
– 超薄型自社ムーブメントの開発に特に注力
– 複雑なムーブメントで高い評価
– 代表的なムーブメント:3120型、7121型
– 年間生産数は限定的で、高度な職人技を重視
– クロノグラフや永久カレンダーなど、高度な機能を持つムーブメントを開発
3.パテック・フィリップ
歴史的背景:
1839年に創業。最も伝統ある高級時計メーカーの一つで、複雑な機械式時計で最高峰と評される企業です。
自社ムーブメントの特徴:
– 最も複雑な自社ムーブメントを製造
– 永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨンなど、最高級の複雑機構を開発
– 年間生産数は非常に限定的(約5万個)
– 代表的なムーブメント:CH 27-70 Q(永久カレンダー)
– 最大で1,300の部品を使用する極めて複雑なムーブメントを製造
– 手作業による仕上げと調整が特徴
共通する特徴
– 全て自社開発のムーブメントを持つ
– 高い技術力と伝統を重視
– 限定生産による希少性
– 極めて高い精度と信頼性
– 継続的な技術革新
これらの企業は、単なる時計メーカーではなく、精密機械の芸術品を作り続ける伝統工芸の担い手として、世界中から尊敬を集めています。
自社ムーブメントの開発は、彼らの技術力と革新性を象徴する重要な要素となっています。
ETA問題によりムーブメント開発の加速したメーカー
自社ムーブメント開発における、タグ・ホイヤー、ブライトリング、オリス、チューダーの特徴を説明いたします。
1.タグ・ホイヤー
歴史的背景:
1860年創業の老舗時計メーカーで、モータースポーツと深い関わりを持つブランドです。
自社ムーブメント開発の経緯:
– 2010年代から本格的な自社ムーブメント開発に着手
– 1860年代から時計製造に携わり、伝統的な技術を持つ
– 2015年に初の自社クロノグラフムーブメント「ホイヤー01」を発表
– モデュラー方式の自社ムーブメントで、カスタマイズ性が高い
特徴:
– クロノグラフに特化した自社ムーブメント
– カレラ、オートビアなどのシリーズで使用
– ETAベースのムーブメントから完全自社製へ移行
2.ブライトリング
歴史的背景:
1884年創業のスイス時計メーカーで、主に航空関連の時計で知られています。
自社ムーブメント開発の経緯:
– 2009年に自社ムーブメント「キャリバーB01」を開発
– 完全自社製のクロノグラフムーブメントを目指す
– 独自の技術開発に大規模な投資
特徴:
– 高精度のクロノグラフムーブメント
– 航空用途に特化した機能
– 自社開発のムーブメントを積極的に展開
3.オリス
歴史的背景:
1904年創業のスイスの時計メーカーで、比較的中規模のブランドです。
自社ムーブメント開発の特徴:
– 自社開発よりも外部サプライヤーのムーブメントを活用
– セリタムーブメントを多用しつつ、独自の改良を加える
– 2014年から部分的な自社ムーブメント開発を開始
特徴:
– コスト効率を重視したムーブメント戦略
– ダイバーズウォッチを中心としたラインナップ
– 技術的革新よりも実用性を重視
4.チューダー
歴史的背景:
ロレックスの姉妹ブランドとして1926年に創立され、より平価な高級時計を提供しています。
自社ムーブメント開発の経緯:
– 近年、ロレックスの技術を活用した自社ムーブメント開発
– 2015年以降、自社製ムーブメントの開発に本格的に着手
– ブラックベイシリーズを中心に自社ムーブメントを展開
特徴:
– ロレックスの技術的基盤を活用
– MT(Manufacture Tudor)シリーズでの自社ムーブメント使用
– 比較的若いユーザー層をターゲットにした戦略
共通する傾向
– ETA離れと自社ムーブメント開発の加速
– 技術的独自性の追求
– コスト管理と技術革新のバランス
これらのブランドは、それぞれ異なるアプローチで自社ムーブメント開発に取り組んでおり、時計産業の技術革新を牽引しています。
いかがでしたか?
2020年ETA問題から、自社ムーブメントの開発が加速したほかには新たなサプライヤーが続々登場しており、その個性的な技術はグループの垣根を越えてさまざまな時計メーカーの機械式時計に搭載されています。
時計選びのポイントのひとつにきになるサプライヤーを研究してみるのもありです。
個人的にはETAのパネライ時代の不安定さが愛しかったりします。
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